セピア色のアルビューメンプリント | Albumenprint


 アルビューメンプリント(鶏卵紙、albumen print)は,19世紀中頃にフランスの発明家・写真家であるルイ・デジレ・ブランカール・エブラール(Louis Désiré Blanquart-Evrard)によって開発された写真史における代表的な古典的技法による写真である。アルビューメンはタンパク質のアルブミンの語源にもなっている卵白のことであり,これを印画紙に用いることからアルビューメンプリントの名がついた。

 アルビューメンプリントは茶色がかったセピア色(sepia color)のモノクローム写真となる。プリントは独特の光沢を持ち,卵白上に分散した銀粒子による幅広い階調による豊かな描写が特徴になる。私たちが抱く古い写真はセピア色を連想するが,このプリントがイメージの元になっている。

 写真技法は,紙に卵白と塩化物(NaClやNH4Clなど)を塗布したものを乾燥した後,硝酸銀(AgNO3)水溶液をさらに塗布する。すると卵白中の塩化物イオンと銀イオンが反応し,感光性の塩化銀(AgCl)を生じ,印画紙となる。昔は太陽光(現在は紫外線ランプ)を光源に,印画紙はネガとの密着プリントによって写真画像を得る。

 ここに紹介する作品は,銀化合物と紫外線光との化学反応によって生み出されるアルビューメンプリントをスキャナで取り込んだものである。作品の周辺を囲う茶色い刷毛目は,卵白を塗布した塗布した紙に硝酸銀水溶液を刷毛で塗布した跡になる。塗布は3回行っており,よく観察すると回数を重ねるごとに画像が濃くなっていることが観察できる。

 アルビューメンプリントは印画紙の作成から露光機によるプリントまですべて手作業によるため,一枚のプリントを得るまでに多くの工程と時間が必要である。しかしながら,この作例のように独特のコントラストや質感は,現代のデジタルプリントではなし得ないものであり,同じ写真であっても異なる表現が可能となる。参考として,アイキャッチ画像はphotoshopでアルビューメンプリントを表現した。

 現代のデジタル写真に慣れている私達は、写真本来の目的である記録性の向こう側にある何かしらをアルビューメンプリントから感じるのではないだろうか。


モノクロームのアルビューメンプリント、古典技法でプリントした写真、トルコのイスタンブール、セピア写真
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