Photoshopで行うアルビューメンプリント
アルビューメンプリント [鶏卵紙] (albumen print) は19世紀中頃にフランス人のL.D.B.Evrardによって開発された写真技法である。当時の写真は画像を湿板写真(あかつき写房:湿板写真)に白黒を反転した画像(ネガ)として写し取り,そのガラスのネガを鶏卵紙に焼き付けて写真画像として残していた。アルビューメンプリントは,アルブミン(鶏卵の白身)を感光剤のハロゲン化銀(e.g. AgCl)とその支持体となる紙とのバインダー(支持体)に用いることからこのような名称が付いた。アルビューメンプリントのセピア色はハロゲン化銀がアルブミン上で反応した銀化合物の色である。また,画像表面の質感はアルブミンによるもので,絵画のような絵肌(マチエール)や独特の光沢が得られる。オルタナティブプロセスとも呼ばれる古典的な表現技法(alternative process)の一つであるアルビューメンプリントは,写真のネガポジ法の発見者であるW.H.F.Talbotのカロタイプ写真よりもコントラストを高く表現することが可能であることから,ゼラチンシルバープリント(白黒の印画紙による写真)が普及する20世紀初頭まで一般的に使用されていた。
ここに紹介する作品は,銀化合物と光との化学反応によって生み出されるアルビューメンプリントのものと同等の表現をPhotoshopで再現させたものである。具体的には,暗室でアルビューメンプリントするために作成するデジタルネガをアルビューメンプリント同等にデジタル出力したものである。これは古典技法であるアルビューメンプリントを現代のデジタル技術で表現した新たらしい試みの作品である。
下の画像の左側はレトロ調に調整したカラープリントで,右側がデジタルアルビューメンプリントである。これら二枚を比較するとカラー画像とアルビューメンプリントとの違いがよく分かる。暗室で行う古典的な技法は,1枚の作品を制作するのに多くの工程が必要であるが,デジタルであれば様々な作品にも同様の表現が可能となる。この作例のようにコントラストや明度などの効果は,従来の古典技法ではなし得ないものであり,写真の表現の幅を広げてくれる。写真技術の創成期に発見されたアルビューメンプリントは,現代のデジタルの時代においてもなお新しい表現の可能性があるものと感じている。
アイキャッチ画像のカラー写真はデジタルアルビューメンプリントを用いた作品 HORYUJI である。
HORYUJI | Nara, JAPAN
HORYUJI-movie | vimeo